番次郎の盤上万歳!!: BABELが訴える「負けるが勝つ」というパラドクスについて

2017年6月8日木曜日

BABELが訴える「負けるが勝つ」というパラドクスについて

昨年11月、都内で開かれた「アナログゲームラボ」というボードゲームのイベントにおいて、突如として販売されるや否や、またたく間に広まりを見せ、各店舗、カフェへと委託をされるも瞬時に完売の状態が続き、その年のゲームマーケット秋においても即時完売という、そんな驚異的な売上を見せたゲームが存在する。
それこそが、今回紹介する、こぐま工房のBABELである。

このゲームは実に不思議なゲームだ。
バックとなるバベルの塔崩壊の寓話そのものは、言わずと知れた旧約聖書「創世記」からの出典であり、パッケージ裏にもきちんとその言葉が引用されている。
取扱説明書の文面やデザインも実にクール。白を基調とした背景に、丁寧な明朝体で表記された文面は、あたかも古文書を読み解いているかのように我々をゲームの世界へと誘う。

と、思いきや、

添付された説明書にはもうひとつ、別の冊子が用意されている。
こちらは打って変わって実に愛嬌たっぷりの動物たちが、和気あいあいとBABELで戯れる遊び方説明マンガが収録されている。(この時のイラストは七色洋品店先生)

??!

脳内は混乱し始める。一体全体、この落差は何だ?!
さながら、BABEL崩壊後の世界に我々が没入してしまったかのような、崩壊後の世界とは、動物たちが人間の言葉を介し、戯れるような、メルヘン豊かな世界へと生まれ変わるのか、と、製作者のそんな暗喩とも取れるメッセージに、私は一瞬たじろいでしまった。

閑話休題、このBABELというゲーム、秘めたる面白さは多岐にも及ぶ。
まず、従来の正体隠匿ゲームの枠に収まらない独自のゲーム性という観点から説明したい。
細部ルールについては他所のブログ等を確認していただくことにして、勝利するためには、建設者ならば狂信者サイドの妨害を退けながら塔を規定の階層まで建設することであり、一方で狂信者サイドは建設者に塔の崩壊を仕向けることが目的だ。
この際、塔の素材として使用されものが「薄い紙」である。
すでにお気付きのこととは思うが、似たような塔建設のゲームに「キャプテン・リノ」が存在する。
しかしリノのそれに比し、手に取った瞬間、誰もが気がつくほど建設の際に使用する紙が薄っぺらいのである。
実に頼りない。
建設ありきで組み立てていくことを目的とするリノは筋骨隆々のヒーローが故、それなりに厚くて丈夫な素材の紙質を使用しているのだろう。
一方でこのBABELは、神話に基づくよう「崩壊」を前提としているからか、ハナから崩れるような紙質で作製されているとも取れるのだ。
建設者のカードを見ても、ガリガリの、至って普通の人間だ。
それらは全てこの「紙質」に投影されているのだろう。
ちなみに制作に携わったのはペーパークラフト作家の「たきざわまさかず」氏。テレビチャンピオン第9回ペーパークラフト王選手権出場の経歴を持つ実力の持ち主だ。
あのBABEL独特の「崩れそうで崩れない、絶妙なさじ加減」を保つためには、あの紙質が最適という判断だったのだろう。
さすがはペーパークラフト作家。紙(神)への飽くなきこだわりと情熱がひしと伝わる。

無論、紙質だけではない。
このゲームは、建設するというX軸と、正体隠匿というY軸が同時並行で進行するという、いわば脳全体を一堂に会した上でゲームに臨む必要性が生じるため、プレイ後は一気に疲労が襲ってくる。

ニットウィットという連想ゲームがある。プレイすればわかるのだが、「よーいスタート!」の掛け声と同時に、まず糸車にかけられた糸を読み解いていき(左脳)、かつ、それぞれの糸に結ばれた札のキーワードに沿った題目を、相手とバッティングしないよう、素早く考えなければならない(右脳)。ゆえに、プレイ後は脳全体に異常なほど疲労感を味わうゲームだ。

このBABELにおいても、相手の提示する番号を推理し(左脳)、受け取ったカードを使用して上手く建設する(右脳)。しかも手先を使用することにより、脳の疲労はさらにダイレクトに伝わるので、疲労度は一気に倍増する。
ハラハラ、ドキドキといった緊張感がそれにスパイスを加える上、更に言語統制などされてしまうと、1プレー後の疲労度は計り知れないものがある。


次に、このゲームのメッセージ性について触れたい。
バベル崩壊の創世記を紐解くと、人類の創世が、あたかもバベルの崩壊によって創生された、といった文言で表現されている(旧約聖書出典)
これは、ともすれば、狂信者が塔を崩壊させ勝利を勝ち得ることこそ、人類の史学の上では正しくあるべきではないか、と、そんな強烈なメッセージを訴えているようにも聞こえるのである。

改めてBABELのパッケージを見返してみると、タロットカードの「塔のカード」を彷彿とさせるデザインである。
タロット占いによると、塔のカードは(正位置の場合)崩壊、災害、悲劇、失敗、といったマイナスイメージの言葉が並ぶ中、「全てをゼロに戻す」「謙虚であれ」といった、何か「失敗を糧として、そこから学んでいく」といったプラスのメッセージともとれる言葉も幾つか見つかった。


これらを総括するに、このBABELというゲームが訴えかけるメッセージとは「真に勝利するためには崩壊をも受け入れること」というパラドクスではないかと思うのだ。

そう、建設に成功することによりかえって「稲妻(霹靂)」、すなわち神の裁きにでも遭うかのような(そういえば塔の最上段には、避雷針とも取れる旗も立っている)、あたかも「正しい事ばかりが正義じゃないんだよ」とでも言わんばかりの、それらを暗に我々に訴えかけているようにも取れるのだ。

先に述べたように、このゲームは狂信者が勝利することが必ずしも悪役を司るイメージを持たない。
少なくとも私の中ではプレイ後「出発点に立ち返る期待と希望」「絶望を受け入れることで知ることのできる優越感」といったプラスのメッセージが芽生えてきたのだ。

崩壊を前提とする、すなわち「失敗ありきのゲーム」に見えてくる「希望」という存在、このゲームが訴えるのは、そういった「絶望の底に立つからこそ触れることのできる一輪の花」の存在を我々に提示しているのではないか、と、密かに感じるのだ。



このBABEL、旧版では幾分狂信者不利とされたゲームバランスも改善され、新たなカードを加えることによるゲーム性、遊びやすさの向上、さらに説明マンガも今話題の人気作家「あやめゴン太先生」執筆の新バージョンと、全てにおいてリニューアルを図った新版が販売され、一般のゲームショップ、Amazonをはじめとするネット通販等でも容易に入手できるようになった。

こういった名作ゲームが、いつでも好きな時に入手できるという環境に恵まれている幸せを、今、改めて噛み締めている昨今である。


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