2020年8月4日火曜日

笑顔の報酬 第2回静岡アナログゲーム祭り備忘録

事実を見るようにする。
真実を口にしてはいけない。
真実はよく、うそつきが口にするもの。
(引用:糸井重里著「羊どろぼう」より)


・・・

 いくら何でも馬鹿げているとは思う。
 いくら「一期一会だ」とはいえ、間髪を容れず、まして時期的にも「長距離の旅程は控えてしかるべし」といった情勢の中、事もあろうに「2週連続の長期遠征」は流石に自分を酷使しすぎだ、と、いつものように事を終えた頃に反省する、相変わらず何も成長しない僕。

「無理せず体調を整える」
 先週開催された大阪の盤祭Re-3rdから帰宅した僕は、作業のペースを自分なりに落とし、目の前でできることだけを粛々とこなす、そんな日々を過ごしていた。
 同時に、盤祭の主宰を務めたコロンアークの「たなやん」さんに感化され、僕は休んでいる間中、必死になって本コロナ関連の情報(決してマスメディア等ではなく、論文等を中心とした確かな筋の情報)を読み漁り、静岡のイベントに向けて処置・対策を整えることにした。


 7月末、静岡県はウイルスの警戒態勢を「4」へと引き上げた。

(参考:警戒レベル「4」に引き上げ、県内移動「警戒」静岡県知事「拡大抑止へ重大な局面」2020年7月28日静岡新聞SBSより)
 同記事によると、「レベル4」とは、外出禁止や休業要請が発令される「感染まん延期」の一歩手前、休業要請・不要不急の外出を呼びかける段階だ。

 政府が推進した「Go toキャンペーン」の影響も相まって、県内外を問わず様々な意見で賑わう。
 静岡県のフォロワーさんも多い僕のツイートには、しばらくそんなイベントに対する不安の声がTL上を飛び交っていた。
 全国的なウィルス感染者数の上昇もあり、僕は出発直前まで本イベントの出展の可否を決めかねていた。

 結果として参加に踏み切った僕は、本イベントに出展する何らかの「想い」が心の中に潜んでいることに気がついた。
 その正体が何かについて、当時は把握することができなかった。
 現地に行けば、参加をすれば、きっと答えの欠片が見つかるかもしれない。

 希(まれ)なる望みで文字通りの「希望」を乗せ、僕はまた西へと向かうことにした。



 7月31日金曜、AM11時
 この日の新横浜駅も人影はまばら。夏休み初日だというのに、家族連れどころか大きなスーツケースの旅行客もなく、ノートパソコンを抱えたビジネスマンが数名点在する状況だった。
 定員100名ほどの乗車シートに5、6名の人間を抱えた新幹線こだま号は、何事もなく静岡駅構内へと滑り込んだ。
 この日も気温が30度を超える静岡市街地。
 水分だけはしっかりと補給しつつ、この日はまず市内に位置する老舗玩具店「百町森」様へと向かった。

 子ども向けのおもちゃが並ぶ店内では、ベビーカーを引いたお子さん連れの夫婦が店内のあちこちに目を向けていた。
 ボードゲームのコーナーを漁ると、見たこともない作品が数多く並ぶ。
 「タコツボ」というアブストラクト作品を手にし、僕は一路、会場となる静岡県藤枝市、藤枝市文化センターへと向かった。

 駅から程近い場所に位置する「藤枝市文化センター」は、約半年前となる12月、第1回アナログゲーム祭りが開催された会場でもある。
 いくつも荷物を抱えた僕は、汗だくのままロビーに腰掛け、18時の会場設営を待つ。
 メンバーは主催の弓路さん、光河さん、ぶんぶんゲームズのあとりさん、ナガイさん、久遠堂の久遠さん、お隣ブースの「ジェーンとマトン」さん夫妻ら数名の有志だ。

 予定の倍の衝立が用意され、成人男性の高さ付近となるよう、ラップ状のフィルムが設けられた。
 机前方1メートルの位置にはソーシャルディスタンスが保たれるよう基準となるテープが貼付されている。



 

 遠方から眺めると、さながらRPGのラストダンジョンらしき様相だ。


 最終的な会場配置は以下の通り。


 ブース配置は一部変更され、ステージ上の「ぶんぶんゲームズ」は無くなり、当日の運営スタッフへと回った旨を伺う。
 番次郎書店ブースもB1a→A1aへと再配置された。
 恐れ多くもこちらは「ゲームストア・バネスト」が配置される予定の場所だ。

 後日回ってきた公式ツイートによると、当日まで出展ブースは総勢28ブース、出展辞退は8に上った。
 その中には、ゲームストア・バネスト、妄想ゲームズ、ノスゲム、等の有名・人気ブースも並ぶ。
 参考までに、7月26日開催の盤祭Reー3rdは20サークル(出展辞退の数含む)8月16日開催のゲームマーケット浅草は28サークル(2020年8月4日現在)となっている。


 1時間半ほどの時間を会場設営に割き、次は自分の担当するブースへと向かう。
 前回の盤祭と同様、長机の半分ほどのスペースだ。


 小一時間ほど時間をかけて準備を整え、念のため、本番と同様の服装に着替えることにした。
 大きな布製のマスク、デニムのエプロン、頭には手拭いを巻き、ビニールの手袋やフェイスガードも装着した。
 第一印象として、非常に蒸し暑い。



 会場設営後、この日は有志を募り、名物「さわやか」のハンバーグを堪能することにした。
 遅い時間の来店とはいえ、人気店舗の「待ち時間1人(この「1人」が我々グループのため実質は0人)」の表示を目にできるとは。



  肉汁溢れるハンバーグを口にしながら、僕は参加の意思を表明したは良いものの、決して大手を振って参加できないことへの一抹の寂しさを覚えた。
 イベント開催中も常に一触即発、少しでも判断を見誤ると、クラスタ発生に端を発し、ボードゲーム全体を含めた何もかもが「なし崩し」となってしまう。
 そう考えた途端に、僕は身体中の震えが止まらなくなった。
 美味しいはずのハンバーグもいまいち喉を通らず、僕は暗澹たる気持ちにかられながら店を後にした。
 

 翌朝は気持ちの良いくらいの好天に恵まれた。日中の気温も三十度を超えると予報される。

 荷物を手に、再度藤枝市文化センターへと向かう。


 昨日の「完全防備された」服装に着替えつつ準備を整える。
 室内は内部の空気を外部に排出する仕組みらしく、自分の想定したような空調は効いてはいない。
 布マスクの装着時間は、朝10時ごろから数えて丸8時間程だっただろうか。
 通気性に加え、ゴムが耳元に食い込み痛みが走った。ノスゲム制作の「忍者ネコマスクフック」が本イベントでも活躍を見せた。
 次回イベントの際は、より通気性の良いマスクを持参しようと誓う。


 参加各サークルも、直接触れることなどが制限された今回のイベントに向けて、各種の創意工夫を凝らしていた。
 一部を紹介したい。
「カエルの王国」などを手掛けたイオピーゲームズはオーバーレイを自前で用意し、フィルムに直接値段等を記載するなどを行なった。
「88ICE CREAM」などを手掛けた88createの小林さんは、値段表の横に作品紹介のブログへリンクするQRコードを記載した。

 お昼前、本イベントの目玉でもある「マグロ丼」を頬張った。
 綺麗な「さし」が入った肉厚なマグロは、噛むほどに旨味が滲み出る。

 

 昨年も人気を博したマグロ丼を、各人が黙々と口に運ぶ。
 「美味しい!」「旨い!」本来ならそんな感嘆の声が飛び交っていたのかな、と、妄想するも、すぐさま払拭した。
 開催直前に気持ちをマイナスへ持っていってどうする自分。

・・・。

 12時。拍手とともに開場の時間を迎える。
 ブース越しに見える入場直後の様子は、目的の作品目指してダッシュする、といった姿もなく、少しずつ、ふわり、ふわりと来場者が溶け込むような姿に映った。

 スペース隅に控える我が番次郎書店ブースは、前回同様、呼び込みも声掛けも「なし」だ。

 とはいえ、前回の反省をきちんと踏まえ、今回はフリーペーパーやチラシを配るアイデアを実践した。
 声を控えめに、手持ちの「#ボドゲフリペ」や「駒の時間」のチラシなどを、通りすがりの参加者らに手渡しつつ、「よろしくお願いします」と小声で添えた。

 人通りは終始一定で、観察する限り、少ない時でも10人ほどの来場者が場内を散策された様子だった。
 その中には、人気ブロガーの双六小僧氏や、人気YouTuberの「わんサメチャンネル」のわんわん氏らも含まれていた。

 会場内は先のぶんぶんゲームズの方々をはじめ常に3,4人の運営スタッフが、防犯・防疫の観点で監視の目を光らせていた。
 マイクを通じた全体アナウンスで、マスクの着用など注意を促した点も大変ありがたかった。

 チラシ配布の効果もあり、少しずつ来場者の手にわたる僕の作品。
 ボードゲームのイベントで、ボードゲームでもクイズでもない、そんなイレギュラーな作品を受け入れてくださったことを、改めて主催の方に感謝したいと思う。

 時間とともに、僕のブースにも人が集まり始め、ボードゲームでもクイズでもない「作り方の本」を不思議そうに眺めながら、多くの来場者が動画クイズに挑戦してくれた。
 シート越し、ガード越しでも十分に楽しめる今回のアトラクションは、今後もさらに活用できる手段であることを実感できた。


 時刻は15時を回る。
 フェイスガードは時折汗で曇り、湿った布マスクは汗を吸ってぐっしょりと濡れたため、すぐに替えのものを装着した。
 ビニールの手袋を外すと、まるで長風呂に浸かったかのように両手が白くふやけていた。
 水分補給のためにと用意した経口補水液は、心なしかレモネードのように感じるほど喉の乾きを体が訴えていた。
 近くの自販機に走り、数本のジュースをがぶ飲みする。
 1時間が長い。
 もちろん販売できる時間は1分でも長い方が嬉しい。
 しかしながら、30度近い場内の気温は、僕の甘すぎる目論見をよそに、否応なく体力を蝕む。
 前回「盤祭Reー3rd」では雨天だったことも幸いし、室内の密度に比して室温はそれほど上がらなかった。
 完全に僕自身の見積もりの甘さが露呈してしまった。


 17時、ようやく閉会の拍手が鳴り響く。
 頒布できたことそのものより、なんとか閉館時間を迎えたことの安心感と嬉しさが胸に込み上げてきた。
 倒れ込むようにパイプ椅子へと座り込み、周囲に注意を払いつつフェイスガードを外すと、額からは玉粒のような汗が流れた。
 軽い脱水からか、体は疲労に苛まれ思うような動きが取れない。
 場内のパインサイダーを貪るかのように飲んでいると、手の空いた有志が会場の撤収を開始し始めた。

 

 粛々と撤収作業が行われる。
 ビニールが剥がされ、衝立が取り払われ、場内は文字通り「雲散霧消」を示すかのように元の佇まいを取り戻した。
 


 急な空腹を覚えた僕は、そそくさと会場を後にすると、「来場します」とツイートされた静岡のGameCafe BINGOのオーナーの元へと向かった。
 

 店内では常連客と思しきグループが、部屋の奥でワイワイとボードゲームに興じていた。
 店長としばし会話するも、疲労からか、お互いの暗い話題しか口に出ない。慌てて僕は「イベントは楽しかった」「ウイルス対策はバッチリだった」とプラスの話題を切り出した。
 奥のグループの一人がこちらに気づき、昨年第1回も僕のブースに立ち寄った旨、クイズを楽しみにされた旨を話してくれた。

 帰りの新幹線の時間が迫り、何度もお礼を述べつつBingoを後にする。
 事前に耳にした地元名物のおでんや桜海老が恋しくなったが、万が一のことを考え、泣く泣く駅売店の弁当を手にとった。

 


 帰りの新幹線に揺られながら、改めて今回のイベントを振り返った。

 
 本状況に関する数多くの意見がやり取りされる中、それでも開催に踏み切った運営各スタッフ。
 その気持ちを踏みにじらないよう、来場者、出展者、それぞれが工夫された、終わってみれば、そんなイベントだった。

 これからどうなるのだろう。
 しばらくは、こうした制約のあるイベント運営を余儀なくされるのだろうか。
 そうと思うと同時に、僕はほんの半年前に過ごしたはずの日常が遥か彼方へと遠ざかったように錯覚し、深くため息をついた。

 全参加者、そしてSNS越しに注目されたであろう非参加者、双方の不安が交錯する中、「感染者がいても感染しない、感染者であっても感染させない」を合言葉とし、開催に踏み切ったイベントスタッフ。
 その期待に応えたい、という僕の本心は、果たしてホンモノだったのか。
 僕は今一度「そうまでして物を売りたかったのか」を自分に問うた。
 その結論は、僕の中で終始を通じ揺らぐことはなかった。
 僕は物を売ることを通じ「相手の喜ぶ顔」が見たかったのだ。
 
 作品を紹介し、内容を伝え、相手が気に入った作品を手渡すことができたときの、相手の満面の笑顔、嬉しさ、それらはマスクやフェイスガードを装着しようとも、肌感覚で直に伝わるものだ。
 そんな相手からの「笑顔」を間近で感じるられたことが、殊更一人でこもりがちの作業が続く僕にとって、何事にも変え難い報酬だった。

 加えて、当日は同窓会にでも出席したかのような、出展者同士の他愛ないやり取りや近況報告、イベント来場者同士の会話、それらを通じ目にすることができた「相手の笑顔」が、僕にとって何よりの報酬に感じたのだ。

 褒められたら(調子に乗って)伸びる、そんな単純な僕の性格だからこそ、イベント当日に直接やり取りすることのできた「笑顔の報酬」を手にした瞬間、次へのモチベーションが飛躍的に伸びる。 
 僕が無理を承知した上でも出展に漕ぎ着けた本当の意味が、どうやらその辺りに眠っていることを自覚した。

 会話を控え、接触を最小限に、距離をきちんと保ち、最大限の予防に従事する。
 そうした制約の中、お互いが直接「笑顔」をやり取りし、自らの、ひいてはイベント全体の「次へ」と、新たな道を切り開く「糧」とすること。

 机上の計算やオンライン上では弾き出すことのできない、僕が真実ではなく「事実」を通じ学び得た今回の教訓だ。
 うん、やっぱりイベントって、面白いよ。



 23時を回りようやく家路へとたどり着くと、薄暗い部屋の明かりから、いつもの作業場が僕を出迎える。
 笑顔という名の報酬は十二分に頂戴した。
 次はこの報酬を糧とし、各種イベント等へとバトンをつなぐ番だ。
 それまでは、己の中の創作の火を、絶やすことなく灯し続けることにしたい。

 蛇足ながら、現実は「拡大再生産」のような、頑張りに応じた見返りが必ずある、とは言い切れない。
 けれども、すべてはそうだとは断言できないのではないか。
 その一つが笑顔ではないのかな、と、今更ながら振り返る。



・・・



追伸
 盤祭Re-3rdから早10日、静岡アナログゲーム祭りから3日が経過した現在まで体調は良く、cocoaによる感染も「接触なし」と現れていることを補足します。




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