番次郎の盤上万歳!!: 創作落語 その2「双六名人」

2018年6月11日月曜日

創作落語 その2「双六名人」

創作落語を考えました。かなりの荒さが目立ちますが、雰囲気だけでもお楽しみくださいませ。





古くは徒然草第110段にも、双六名人に関する記述があります。

「双六の上手といひし人に、その手立を問ひ侍りしかば、「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。いづれの手か疾く負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目なりともおそく負くべき手につくべし」と言ふ。」

「双六名人という人に、その方法を尋ねましたところ、「勝とうとして打つのではない。負けないように打つべし、どうすれば負けないかと考え、その手を打たず、一目でも遅く負けるような手をおくべし」という」

と、これはまぁ当時の盤双六を通じた処世訓を謳ったものでございます。

時に時代は江戸中期、とある長屋に1人の男が住んでおりました。
この男、まぁ昼間っから酒を飲んでは遊んでばかり、しかし双六の腕にかけては右に出る者がいないとあって、町では評判がある男、
年がら年中遊び呆けては、その双六の腕を鼻にかけてばかりいたのでございます。

「ちょいとお前さん、また働きもしないで遊びに出かけるのかい?ちょっとはこのボロ屋に銭でも入れておくれよ」
「へへっ、そうは言ってもよ、俺のこの腕っぷし、お前の耳にだって入ってるんだろ?」
「双六だけでおまんまが食えますか!うちはとんと火の車なんですよ!ちょっとは真面目に働いたらどうなんです?」
へいへいと押し切られたかのようにその男は町へと出て行きます。

「まったくあの人ったら、双六の腕は達者かも知れませんが、このまま遊んでばかりだと、明日の身代もどうなるかわかりやしない……
そうだ!この町の長者さんなら、何か相談に乗ってくれるかもしれないわ!」

「ごめんやしー」
「なんだ双六名人とこのカミさんじゃないか。え?どうしたこんな昼間っから」
「いつも亭主がお世話になっております、実は長者様に、折り入って相談に参ったのです」

妻はそう言ってとうとうと語り出します。

「というわけで、何かお知恵はないものかと」
「そうかい、それは困った、よし、ならば私にひとつ、妙案がある」

そう言うなり長者は、長屋の奥から、見たこともない箱を取り出します。
「長者様、これは一体なんですの?」
「実は先日、南蛮渡来のエゲレス人から、珍妙なすごろくがちょうど手に入ったところでしてな」
「こんな可愛らしいネズミの絵が、すごろくですって?」
「いいかい、よーくお聞きなせぇ、「びばとっぽ」という名の、ちょっと変わったすごろくとなっているのだよ」

長者様はそういうとそっと箱を開けます。
中から飛び出しましたのは見るもかわいいネズミたち!
「キャア!ね、ネズミ!!」
「慌てなさんな、これは人形でしてな。まあ簡単に言やぁ、さいころでこれを上がりに進めたら良いっちゃあ良い。でも、それだけじゃないんだ」
「はぁ……びっくりした」
「でな、1の目を出すと、このネコが背後から襲ってくる。襲われたネズミたちは食べられるんじゃ」
「まぁ、可愛らしいネコちゃん!」
「もうひとつ、道中にねずみの友人の家があって、そこに逃げ込めば、抜けることもできるんじゃ」
「そうですの、あら?この黄色くて、丸い…長者様、これはなんですの?」
「んー、せんべいだったかのう」
「おせんべい!なんとまあ贅沢なねずみさんですこと!」
「まあそりゃともかく、最後の上がりまでネズミを向かわせるか、途中の家に逃げ込むかを繰り返して、このせんべいをたくさん手に入れた人の勝ち、なんじゃ。ほら、この書物にも、遊ぶ姿が描かれておるじゃろ」
「ほうかごさいころくらぶ…?長者様は本当になんでもお持ちですのね」
「詳しくは、ここのおなごらを見ればよくわかる」
「ふんふん、まあ!これなら、いくら名人といえども、ひと泡吹かせることができますわね!」
「よし!そうと決まれば、ワシも早速、双六名人に太刀打ちできる仲間内を集めてくるかの」
「長者様、恩に着ます!」

……と言うわけで、この村一番の大勝負、噂が噂を呼び、どんなものかと見届けようと、多くの野次馬が集まります。

「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、町一番の双六名人が、三人の若い衆と、南蛮渡来の双六で争うなんて、余所じゃあ決して見られないよ!」

町ではさながら八幡様の祭りのような、てんやわんやの大騒ぎ。
「あの双六名人もついに観念する時が来たか」
「南蛮渡来の双六は何か」
と、小さな盤面の周りには、すでに多くの人だがりが出来ております。

「へっ、どんなものかと思ったら、ちみっこいガキのおはじきじゃねぇか、朝飯前の海苔茶漬け、何人でもかかって来いってんだ!」
「いいか名人よ、お前のカミさんからのたっての勝負だ。負けたら観念し、ちゃんと真面目に働くんじゃぞ」
「なんでもやってやらぁ、この双六名人の名にかけて、カエル一匹でもおいらより前に出ようものなら、皿洗いでもどぶさらいでもなんでもやってやらぁ!」

双六名人は鼻息を荒くし、まずはさいころを振ります。
「まずは早速1の目だ」
「名人、ついでに言っておくが、この双六では一の目が出た時には、駒を進めながら「にゃー」と泣くっていうらしいんだ」
「またちんけな決まりがあるんだな。よーし……、「にゃおぉん!」」
「お前さん!!まさか本当に猫又にでも取り憑かれたんじゃ…」
「馬鹿な事言っちゃいけねぇ!」

名人は続けます
「1、ほら「にゃおぉん!」」
「また1、「にゃあぁん!」
「1だ、「にゃぎゃぁぁ!!」」

山猫の如き名人の鳴き声とは裏腹に、ひたひたと猫は這いずりよって参ります。
「なんだなんだ俺っちの駒、全然進まないじゃねぇか!」
「どうした名人、いつもの調子は」
「ちょいと待っとくれ、ここでピンゾロを出せば逆転できるんだけんども」
「見苦しい言い訳は後回しだ、さぁどうする、隣の家に入りこめば、とりあえずこのせんべいを1つ取る事ができるんだが」
「けっ!そんなしみったれたせんべいのかけらなんざ、酒の肴にもなりゃしねぇ!」

名人は頑として上がりを目指すのですが、猫は背後から容赦なく襲ってきます

「さぁ名人、聞いていたと思うが、二週目からはこの猫が2つ進むことになるんだが」
「ついに化け猫が本性を現しやがったな!だがな、ここで食い下がっちゃ男がすたるってんだ!」

速度を上げて背後から迫り来る猫に、ついに名人、為す術もなく全ての駒を食われてしまいます。

「また1か、(すぅー)「うみゃぁぁぁぎゃああわあぁ!!」」
割れんばかりの声も虚しく、名人の持つ最後のネズミのコマも、ついにネコに御用となります

「あぁ名人、ついに最後のネズミも食われちまったか。それじゃ精算だ。八兵衛は六つ、お近は四つ、金次は最後に上がりに入ったので六つ足して八つ、名人は1匹残らず猫に食われちまったからなしだ」
「くっ…俺としたことが名人の面目丸潰れとは、情けねぇ…、」
「名人よ、これで目が覚めたじゃろ。双六なんぞに現を抜かしてねぇで、これからは心を入れ替えて、ちゃんと真面目に働くんじゃぞ」
「長者の旦那、おいらもようやく目が覚めたでござんす、これまでずいぶんと女房には迷惑をかけやした。これからは真面目に働くことに致しやす、そうと決まれば話が早い!どぶさらいでも、ねずみ取りでも、何でも言いつけてくんなせぇ!」
「それには及ばんよ、何せさっきの鳴き声で、町中のネズミが逃げ失せちまった」

お後がよろしいようで


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