2020年7月29日水曜日

拍手のないゴール 盤祭Reー3rd体験記

 当日は雨の予報だった。
 思い返せば、今年予定されるはずだったゲームマーケット2020大阪、一昨年の同2019大阪、神戸・三宮ボドゲフリマ9、等々、どうも僕の参加する関西のイベント≒雨という図式が立つらしい。

 コロナの影響で長い期間のブランクが開いたイベント参加だ。
 思い返せば今年3月、「ゲームマーケット2020大阪」の開催中止を受け、ボードゲームショップ&プレイスペースGuild様の計らいで開催された小規模の販売イベント、から数え、実に4ヶ月ぶりとなる。

 4ヶ月。
 体感として、実際の年月以上に頭の中の空白は長く、長く、それこそ延々とつづくトンネルの中をひたすら走り続け、ようやく見えた出口付近の光明のような。
 大袈裟ではなくそれが僕にとっての紛れもない本心だった。



 朝6時、僕はいつものキャリーバッグを抱え、新横浜駅の待合室へと向かった。
 早朝ということもあり人影はまばら、具体的には、緊急事態宣言が発令される直前の入り用だった。
 乗り込んだ新幹線のぞみ号16号車は、僕を含め5人ほどしか乗客がいない。販売員はいつもの調子でお弁当を売りに回り、いかめしい顔の警備員も車内を何度となく巡回していた。

 前日前夜からいつものように一睡もできなかった僕だったが、時折目に映る、あたかも洗車機の中を通るかのごとくしきりに窓を叩く豪雨を眺めているうちに、新幹線は2時間ほどで新大阪の駅ホームへと滑り込んだ。

 今更ではあるが、僕の住まいは神奈川県横浜市だ。
 厳重警戒を敷かれた東京都内・都心部からそれなりに距離は離れているものの、決して安堵できる範囲に滞在しているとは言い難い。
 こもりがちの生活では意識に乏しかったが、周囲は唯一関東からの参加となる僕を決して良い目で見てはくれないだろう。
 新大阪駅に到着するも「到着しました!」の報告ツイートすら憚られる。

 今回の僕の主たる目的は、イベントに参加し、目的の頒布物を、目的とされる方にお渡しすること。
 売り上げや販促等、効率だけを重視するならば、決して僕のようなリスクの高い選択を避けて通るだろう。
 翻って、いつもの「番次郎書店」らしさであり、いつもの「効率の悪い動きをする僕」の姿だ。


 少し早めに到着した僕は、開場となる時間を前に、自粛期間の中でお世話となった関西の一部店舗へご挨拶に回った。
 もちろん行く先々で「大阪コロナ追跡システム」のメール登録を済ませて。
 数軒のご挨拶周りを済ませ、12時45分、開催場所となる大阪府難波神社へと到着した。





 我が番次郎書店ブースは階段を上がり2階の広間となる。
 途中の小部屋では別の講習会が開かれており、扉は全て開放され、待合と思しき廊下のソファーには静粛を促す受付の方々が控えていた。
 そっと間を抜け、広間へと入る。
 企業が使う大会議室くらいのスペースにはすでにテーブルが配置され、換気のため、窓も10センチほど空いていた。
 うろ覚えではあるが、「10センチの開放」は「空調と換気の両立が行える寸法」ではなかっただろうか。(細部ソース失念)
 長机は奥に2つ並べられ、出展側と来場側が直接やり取りする際の距離が保たれていた。おそらくソーシャルディスタンスの基準となる2メートルに準拠しているのだろう。
 卓上に設置する作品はサンプルのみと定められ、お渡しする作品は直接唾液等の飛沫感染を予防するため後方のスペースに配置することなどが義務付けられた。
 こうした細かな配慮に、主催となるコロンアークのたなやんさんが「本コロナ下でのイベント」に向けて詳細に研究したと思しき一片を垣間見た。


 続々と集まる出展者。
 同じ2階のスペースには、先般オンライン上で開催された「ボドゲ大祭」でも話題をさらった新作「535」を手にする「かぶきけんいち」さんらGAME NOWA、今回初となる新作「Go To!!」を制作された北条投了さんが迎える芸無工房、新作「プラナリズム」他数作品を配置するごみ国際、新作「ソロル」他数作を準備するオフィスLopha、新作マーダーミステリーを展開する「なかよし紹介」、など、多くの有名ブースがいまや遅しと準備に奔走していた。
 会場の都合もあり、用意された準備の時間は30分。
 必要最小限の準備を済ませるうちに30分という時間は瞬く間に過ぎていった。


 私の右隣には、当日出展する予定だった宮野華也さん率いる「Mob+」のスペースが配置されていた。
 数日前、宮野さんが急な体調不良を訴え、参加を断念されたとのツイートが回ってきた。
 参加を惜しむ声、体調を気にされる声、そして直前にもかかわらず不参加を申し出た英断に感謝する、といった旨のリプライが続々と並んでいた。
 改めて今回のイベントが、作品の頒布を第一義としながらも、いかに安全に執り行うか、が重要な課題と改めて認識した。
 懸念事項、ひいては参加される方に与える不安はたとえ小さいものでもつぶして回り、極力出展者、来場者相互が安心・安全にやりとりできること、が、僕の中でも一つの課題だ。





 肝心の僕自身は、というと、
 これまでブースで行っていた「早押し機によるクイズ」は自粛することにした。
代わりに、iPad上で随時上映する「映像クイズ」を制作し、遠方からでも楽しめるよう配慮した。
 長時間の滞留を防ぐ為、試し読みできるスペースも設置を取りやめた。
 代わりに、内容が一眼でわかるよう拡大、実寸大のパネルを配置し、さらにはQRコードで中身を確認できる紹介ブログへと誘導できるよう処置を講じた。
 卓上には表紙を確認するためのサンプルと、先の映像クイズを常時映し出すiPadを設置し、
 実際の商品は2メートルほど離れた後方のキャリーケースに保管した。
 北越谷ZEST様謹製の布製マスクは通気性を重視し、長時間の装着に耐えられるよう替えを用意した他、マスク内にハッカ油のスプレーを吹き付けた。
 


 まだこれでも完全な処置とは言い切れない。
 イベントが終わった後であれもこれもと反省が生まれる。念には念を入れよ、とはまさにこのことだ。


 13時30分に迎えた開場の時間。
 一階の状況はわからないけれど、時計の針を眺めつつ、グラデーションのようにスーッと始まった。
 ポツポツと足を踏み入れる来場者。いつもの「ラッシャーセー!」の声は出せない。





 今回もヤブウチリョウコ様が作成されたフリーペーパー「#ボドゲフリペvol.2」を卓上に配置し、「こちらは無料ですので是非どうぞ!」と、2階スペースに立ち寄った方にお配りした。
 具体的な数は記さないけれど、用意した分は1時間ほどで配り終えることができた。

 直前に整理券による入場制限があったことも幸いし、一度に多くの入場、2階に関してだけ述べると、長蛇の列を形成するといった大混雑は(僕の確認する限り)見られなかった。
 「安全」という観点で軸を正すと、空調も適度に効き、いわゆる政府が推奨する来場者・出展者相互の「3密(密集・密閉・密接)」は自然と保たれていた。

 14時15分、客足はここでしばしの小休止を迎えた。
 時間を見計らい、お目当ての買い物を兼ねて1階の様子を伺う。
 1階は2階の倍近い来場者であふれていた。
「ゲームストア・バネスト」「コロンアーク」といった目玉ブースに加え、事前に告知された新作の前評判も高かった「あやめ知らず」「サザンクロスゲームズ」ら有名サークルも軒を連ねていたことも一つの要因だろう。
 もっと自分が「2階にもブースがあります!」とアピールするべきだったと後悔する。
  
 16時を皮切りとし、ポツポツと撤収を開始する2階の出展者。
 僕もそろそろ…と構えていたところ、ある一人の来場者が僕のブースに立ち寄ってくれた。
「前回のボド×クロ(ボードゲームのクロスワード、既刊)が面白かったので、今回も楽しみにしてました」
 笑顔でそう話すとともに、ポスター記載の開催時間が「〜16時30分」とあったので、16時頃にお邪魔した旨を告げてくれた。
 そうだ、前回ゲームマーケット秋も当ブースで最後に立ち寄った方は閉会2分前の16時58分にいらっしゃったではないか。
 今回、僕の主たる目的は「お渡ししたい方にお届けできること」だった。最後の一ブースになろうとも諦めず、最後まで任務をまっとうすることだった。
 無事にお渡しできて、本当に良かった…。
 


 結局、僕が撤収へ取りかかったのは16時20分過ぎ。2階ブースの中で最も遅い時間だ。
 撤収を終えたとき、2階のスペースには、荷物を抱えた僕とテーブルだけが取り残されていた。
 一人になった途端、急に広さを感じる2階スペース。
 終了のアナウンスも、全員の拍手もない、寂しさだけがポツンと残されたイベントスペース。ほぅと一息つくと、僕の体は急に空腹を訴えた。
 自販機でコーヒーを買い、カフェインで疲労をごまかす。

 僕の顔からは自然と笑顔が生まれた。
 これまでのイベントとは勝手が異なる、充実感に溢れた笑顔だ。
 もちろん体は疲労困憊だったが、これまでのような「体に無理を利かせた」疲労とは一線を画していた。

 その要因として、まず「大声を張り上げなかった」ことだ。
 いつものような大声による呼び声を控え、相手との会話はマスク越しによる簡単な作品・クイズの紹介程度に留めた。
 学生時代に応援団員だった「昔取ったきねづか」を持ち合わせても、声を出すことにこれほど大きく体力が消耗されることを、改めて気づかされた。

 体力面だけではなく、精神面も「倒れるような疲労」を一切感じなかった。
 何より「直接相手と交流する楽しさ」を改めて実感する、そんなイベントだった。

 「いかとりにょりとおけいのいかがわしいラジオ」にて、コロンアークのブースで物販を担当されたパーソナリティのいかさんがこう話した。

「人が集まって、人と交流できる、人と話せるってのはこんなに大事なことないな。」

(引用:いかとりにょりとおけいのいかがわしいラジオ 第145回「富と冒険!要素もりもりマラカイボの紹介」 http://ikagawasiiradio.sblo.jp/article/187747072.html

 実際のところ、長時間マスクをつけての運営はかなりの苦痛を要した。
 呼吸がしづらいだけではなく、マスク内の蒸れやゴム紐の締め付けなど、長時間の装着は本当に苦痛だった。
 6月に参加した蔦屋書店茂原店主催のイベント「ボドゲでボドゲーン」でも、僕は強く学んだはずだった。

 それでも相手と会話・交流をするうちに、自然と僕の中では、マスク越しに笑顔が生まれた。
 「手に取って欲しい」「買って欲しい」
 そんな気持ちを一旦棚に上げ、作品を見て欲しい、知って欲しい、まるで生まれた我が子を周囲に自慢する親馬鹿のように、会う方会う方の元へ作品を持って回った。
「イベントは、出展する側が楽しい」
 心の底から僕はその気持ちを確信した。


 僕自身の結果を少しだけ話す。
 頒布できた先は、前回ゲームマーケット秋と同程度の割合だった。

・事前に作品のことを承知し、新刊を購入に上がってくれた方
・「番次郎書店」の名前は頭にあったものの、新刊の情報を立ち寄った際に知った方
・ブース名も何もわからないけれど、サンプル等をご覧になり購入に踏み切った方

 それらがほぼ1:1:1の割合だ。厳密には、0.5:1.25:1、くらいだろうか。

 イベントがあることを事前に承知し、目当ての作品を購入した後で、併せて目に留まったものを購入するスタイルは、ピンポイントに欲しいものを購入するオンラインショップでは滅多に体験できない、これこそイベントならではの楽しみ方だ。



 時刻は16時50分。
 外を出ると、雨は小康状態で、小雨独特の生温い風が僕の体を包んだ。
 辺りはとうに日が落ち、薄暗い周囲は、まばゆいほどのイルミネーションが灯っていた。
 飲みかけのポカリを一気に飲み干すと、僕はお誘いを受けた食事会をやんわりと断り、次なる目的へと向かうべく駅構内へと向かった。


・・・。

 当番次郎書店ブースは、ボードゲームそのものも、あると便利なサプライ品も、そのどちらも頒布してはいない。ボードゲームに関する本を頒布する個人サークルだ。
 自虐的に言うと、特段必要とされないモノを頒布しているとも言える。
 そんな末端に位置する個人サークルが、いち出展者として暖かく迎えられたこと、そして遠方であるにもかかわらず、快く出展を受け入れてくださったことに、心から感謝したい。

 何より、反対や批判の声が高まっただろう状況の下、改めてたなやんさんが開催直前に発したツイートを振り返る。

「コロナ後、初めてのイベントとなります。色々なことが予想されます・予想されないこともあるかもしれません。
ただ、少しずつ進む一歩目となります。」


 参加されたすべての皆様がイベント参加を楽しんでいただけるよう、万全の体制を敷き、開催へと舵を切ってくださった主催のたなやんさんをはじめ、来場者、出展者、等々イベントに携わったすべての方々に感謝するとともに、何よりも僕自身がこれからのブース運営の在り方、販促の方法等について更に自学研鑽しなければならないと強く実感した。


 後日、主催のたなやんさんが盤祭Reー3rdに至るまでの様子をnoteにまとめられた。

(引用元:盤祭 Re-3rd運営記録(コロナ禍での初ボドゲイベント https://note.com/colonarc/n/nb49ca0521a43


 その中の一文を引用する。


 これまでの倍程度はメンタルが削られますね。ほんと。
 あれやこれや気にしないといけない。人が来るかどうか、これまで以上に厳しくなっているため、そのため落ち着かない。
(中略)
 こうした、これまでになかった大きなリスクを背負いながらのイベント開催となるため、疲れ方がかなり大きくなります。具体的に私の場合は2日ほどなかなか体が動きませんでした。もちろん、まだクラスターが発生したかどうかは分からない期間でもあったりするわけですが。


 開催の判断は胃を切り詰めるような判断だったかと察する。俗な言い方をすると、終始「矢面に立つ」側に回らなければならない立場にあったはずだ。
 決して万全の状態とは呼べない状況ながら「それでも開催する」の言葉や願いを、「実行」という形で為し得る難しさ、その中で、自ら発見することのできるかけがえのない「楽しさ」。
 イベントに出展する視点、企画・運営する視点は外部から決して覗き見ることのできない、苦しさ、楽しさをも混濁した感覚ではなかっただろうか。
 晴れて出展側となった僕自身も、今回実際にイベントを通じて学んだ経験の大きさが、事前に対する不安や心配よりも遥かに上回った。
 そして本番、制限のある中で開催された実際の動きを通じ、苦しさだけではなく「楽しさ」をも発掘することができた。

 具体的には「新たな面白さ」の視点だ。
 今回、直接の試遊も憚れる中、「流れる映像を見るだけで楽しめるクイズ」を制作・運営し、何らかの反応を手にできたことは、僕にとって何よりの収穫だった。
 言葉を発することなく、直接手に触れて説明することなく、そんな制約ばかりの中でも「できる方法」「発信する方法」etc…、言うなれば、「苦しさ」の表面上を掘削し続け、自らの奥底に眠っている「面白さ」の欠片を、実際に運営を通じた中で発見することができた。それが僕に取って何よりの収穫だった。

 「○○ができない」「▲▲は無理」
 そんなマイナスの面ばかりを妄想する内には決して見ることのできなかった「新たな楽しみ方」の視点は、これから先、たとえ本状況が明るくなろうとも僕の中でかけがえのない体験となったのではないか。
「楽しさは自らの内に秘められている」
 自己啓発か何かの本で目にしたそんな言葉を胸に、僕は次へと向かう電車の中で、ぼんやりと「楽しさって自らの内に眠っているんだな」と妄想した。


 ぼんやりとした頭の中、僕の中では「イベント終了後に全員で打ち鳴らす拍手がなかったこと」が心のトゲとして小さく引っ掛かっていた。
 晴れて終了のゴールを迎えようとも、大手を振って拍手喝采を浴びることのない、決して全員からは称賛の声が上がらない、そんなイベント…。

 ……違う。

 本イベントが何の問題もなく終えることができたとき、初めて拍手を鳴らすことのできるイベントではないか。
 僕は勝手にそう解釈することにした。

 国立保健医療科学院HPを引用する。
「世界保健機関(WHO)のQ&Aによれば、現時点の潜伏期間は1-12.5日(多くは5-6日)とされており、また、他のコロナウイルスの情報などから、感染者は14日間の健康状態の観察が推奨されています。」
と記載がある。

(引用、リンク先:国立保健医療科学院HP、問5「潜伏期間はどれくらいありますか?」)

 帰宅後、僕に課せられたもうひとつの使命は「健康に過ごすこと」だ。
 次に控えたイベントに向けて、これからしばらくは入念すぎるほど体調に万全の注意を払い、何かしら体調の異変を感じたならば、直前であろうとも即座に出展を取りやめること、それらを誰よりも強く意識して行動することだ。

 出展・主催・そして来場者、イベントに参加されるすべての方が安全・安心に、それらを踏襲した上で、楽しく、面白く、誰もが笑顔を育む有意義なイベントとなるよう、僕はこれからの二週間、これまで以上に身体をいたわることにした。

 何事もなく二週間が経過したときが、本イベント真のゴールを迎えることとなる。
 無事にゴールを迎えることができたとき、僕は今一度、あのとき鳴らすことのできなかった「イベント終了の拍手」を、心の中で高らかに打ち鳴らすことを誓う。




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