2020年5月9日土曜日

環境は自らの意思で 自粛制作日誌その7

 養老孟司著「ねこも老人も役立たずでけっこう」の本文に「脳の適応能力の高さ」についての一文を見つけた。

 脳は、非常に適応性が高い。だから、変わるんです。でも、人間はそれに気づいていない。感覚を通して変わっても、自分が変わったとは思っていないんです。それは意識が騙しているんですね。「私は私でしょ」「昨日の私と今日の私は同じ」なんて、意識は言い続けるものなんです


 自粛生活も早6週間を迎え、いまだ生活はオンラインの場が主体となっている。
 SNSの情報をすべからく追っているわけではないけれど、混迷続く状況の中、オンラインの飲み会を開いたり、ZOOMなどを活用したリサイタルやテストプレイを行なったり、など、製作者の銘々が独自の持ち味を発揮しながら外部との接触・交流を図っている。

 フリーの生活へと身を投じたときの話。
 肩書きもお金も瞬く間に消え、呼応するかのようにどんどんと人が離れていった。
 貧しさや苦しさ、寂しさで途方に暮れる中、それでも手を差し伸べ、制作を応援してくださる方々がいらっしゃった。
「渡る世間に鬼はなし」と揶揄されるように、大都市圏での生活の中にも温かく人情味溢れる世界がある、そう教えてくれたのは、何よりオンラインも含めた周囲の環境であり、拙い作品をSNSで公開してもすぐに「いいね」と反応してくださるフォロワーの方々だった。
 今でも貧しさは人を選別する一番の妙薬だと考えている。


 創作の話に戻す。
 昨今の情勢如何を問わず、外部との接続が遮断された生活は想像以上に体が何かしらの「飢え」を訴える。
 飲み物、食べ物、物欲、何よりも人恋しさ、笑い・感動などエンターテイメント、等々、体が発する「楽しさを求める」サインは、何もない生活の中でも日々膨らむ一方だった。
 飢餓感は精神を否応なく蝕み、ツイートの内容も弱音ばかりが並ぶ日もあった。連動するかのように体力、体調等を大きく崩してしまうこともしばしばあった。


 人恋しさに負け、こちら側を搾取したり軽くあしらったり、と、明らかに「悪い」と思しき人とも我慢して対応する、一時期はそれも日常の一部だった。
「本当は良い人だから」
 そんな前置きを渋々飲み込み、執拗にこちらの精神面を“なじる”相手にも笑顔で対応する、制作を続ける中、そんな相手からそっと間を置くようになったのも、制作に没頭する中でそれほど日も経たない中での出来事だった。

 つい先日は「BGA」などに代表されるオンラインゲームに触れる機会があった。しかしながら、どうしてもそれら電子ゲームに「面白さのエッセンス」のみを抽出しただけのような素っ気なさを感じ、言うなれば、アナログゲーム環境下で周辺に位置取る「ノンバーバル」なコミュニケーション、口で、鼻で、耳で、皮膚で、主に「目に見えない部分」が逆に刺激される結果となった。

 サン=テグジュペリ著「星の王子様」の有名な一説を引用する。

じゃあ秘密を教えるよ。
とてもかんたんなことだ。
ものごとはね、
心で見なくては
よく見えない。
いちばんたいせつなことは
目に見えない。

 オンラインでの生活を通じ、常々頭をもたげていた「感情面を揺さぶられる相手、行為とは何か」といった問題が、現実として可視化されたように感じる。
 
 それは決して目に見えるものではなく「肌感覚」という曖昧にカテゴライズされた形の中で、己の心を根底から揺さぶりつつ、自分の視野から外れた世界の中で、ゆっくりと歩みを進めているように感じた。
 見えないからこそ、より体内のセンサーは過敏になり、自分の進みたい道へと誘うかのように、周囲の否定や誘惑の言葉から距離が開き、その一方で、理解し応援してくださる方に向けて次へ、次へと創作の手が伸びる、と、そんな無意識下でのローテーションが更に強さを増した、そう実感する1週間だった。

 しばらくはまだ一人の生活が続くことになるだろうと思う。
 それでも「こんな僕を一人の人間として受け入れてくれる」周囲の方々をこれからも大切に、感謝の気持ちを忘れずに、何よりも自分の提供できる範囲で楽しさを届けられるよう、自分の意識を自分の求めんとする方向へ、と、そんな過ごし方で乗り切っていけたら、と心から願う。
 
 最後に金子みすゞ「星とたんぽぽ」の詩から引用する

青いお空の底ふかく
海の小石のそのように、
夜がくるまで沈んでる、
昼のお星は眼にみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。

 環境を、翻って、自分の向かうべき進路を、大きく変える存在は、何より「目に見えぬものを感じる」自らの意思なのだ。

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