2018年12月15日土曜日

評価数ゼロのデザイン秘話-小冊子に隠されたデザインのあれこれ-

こちらはゲームデザインアドベントカレンダー2018に寄稿した記事です。
ボードゲーム根本のデザインとはそれる部分もあるかとは存じますが、何かのご参考となれましたら幸いです。




前々回、前回、そして3回目となる今回のゲームマーケット秋でも、懲りずにボードゲームに関するクイズの本を刊行することにした。

「出すぞ」と決めてから期間は約半年。
その間、単に問題を熟成させ、良質な問題を提供するだけに従事したならば、それはそれで楽しかったに違いない。

<前回秋に頒布した小冊子のページより>


しかしながら、そろそろ「大転換」が必要ではないか。
マンネリ、という言葉が妥当かどうかは定かではないが、同じパターンを続けることで、退屈何より成長そのものにブレーキをかけてしまう。

それは誰よりも私自身が一番身に沁みていた。

既存のクイズ本に準じた形式、言うなれば、無骨で、真面目で、良くも悪くもテキストベースな「小冊子」を、何とか「読んで楽しい本」にできないか。

幾度となく試行錯誤し、各種デザイン関連の本をかたっぱしから読み漁り、それでも心の中のモヤが晴れない状況の中、POO松本氏がツイート上で開催するデザイン講義の情報を入手した。

(参考)「プロデザイナーによる同人誌レビューがめちゃめちゃ参考になる togetter」https://togetter.com/li/1194227



初学者の私にとって目から鱗が落ちることばかり、いや、既存のデザイン関連本に記載がないどころか、ここまで奥深く「読みやすさ」に特出した書籍、アドバイスは、私の中に記憶がなかったのだ。

一連のアドバイスにいたく感動した私は、ここでしか入手できないと称される「コミックマーケット」にも初めて足を運ぶことになる。聞けばこの日は高温に加え、よりによって歴代最多の客足だったという。

這々の体で入手できたデザイン本を目を皿のようにして何度も反芻し、数ヶ月後、出来上がった私の小冊子がこれだ。



 


読みやすく、面白く、何処に出しても自信を持って推奨できる、そんな「既存のクイズ本から脱却したクイズ本」が完成した。

このページが完成するまでに、私がデザインに関し「受け入れたもの」反して「捨てたもの」をいくつかあげて行きたいと思う

●文字フォント

これまでの小冊子は文字の読みやすさと活字の持つ文学的なイメージから「明朝体」を採用していた。
しかしながら、小冊子を手に取ってくださる層は比較的「ボードゲームに興味はあれど、クイズに関し幾らかの抵抗を感じる層」だった。(個人的な意見です)
そこで、各種バラエティ番組を観察し、使用されている問題フォントを確認する。
明朝体は「学習」「勉強」の意味合いを持たせ、ゴシック体は「融和」「楽しさ」の面を持つものと判断した。

クイズの小冊子、読んでもらわないことには始まらない。
ならば目的が「勉強」ではなく「楽しさ」に主軸を置いたものである以上、こちらの変換は真っ先に行った。

(文字フォントの例。訴えたいメッセージの違いが感覚的にわかるだろうか)


使用する文字フォントを「ゴシック体」を軸に作成し、どうしても文学的にならざるを得ない文章(あとがきの部分など)に関しては明朝体を使用し、その都度、別の顔を持たせるようにした。


・挿絵に関して

前作「画力ゼロでもゲームはできる」(https://hibikre.blogspot.com/2017/12/blog-post.html)という記事をアドベントカレンダーに掲載しておきながら、やはり要所の場面で挿絵程度のイラストを描けた方が「都合が良い」と判断した。
(美麗なイラストは描けなくても良い作品はできる、というポリシーは未だ持ち続けております)

3ヶ月前、この程度の腕前



約3ヶ月、イラストをみっちりと練習し、自分の中で「それなりに」見栄えするイラストが出来上がる。



詳細(ブログ(僕のイラストができるまで「小冊子イラスト奮闘記」番次郎の盤上万歳!!)「https://hibikre.blogspot.com/2018/11/blog-post.html」)

こちらを、全面にアピールしたわけではない。
使用した場面はあくまで表紙の一部分、左上の隅、ちょこちょことキャラクターを登場させた程度。
料理で例えるならば「スパイス」として扱ったに過ぎない。




しかるに、キャラクターを登場させることで「小冊子に一体感」を持たせることができた。
ジャンル毎、バラバラだった小冊子全体を、看板キャラクターを登場させることで上手く取りまとめる作用を施すことに成功し、全体がより引き締まった。
イラストが描けなくとも、前作、前々作のような「ピクトグラムを掛け合わせたようなキャラクター」でも十分代用が効いたかもしれない。


・目線の誘導

次に着目した点は「目線の動き」だ。

前回までの小冊子は、各ページにパターンが定められており、型枠に沿った形で問題を当てはめていった。言うなれば「金太郎飴」のような形式だ。
この利点は「どのページを切り取っても、同様の楽しさを提供できる」点にあり、良く言えば「どこからでも楽しめる」悪く言うと「同様の風景が続くので、退屈で連続視聴に耐えられない」
前者は計算ドリル的、後者はパンフレットのようなものと勝手に解釈している。

目線の動き、そして、目に飛び込んでくる情報を一定にしないことで「脳に入る情報の均一化=退屈」を防ぐ、

そのためには、文字を羅列する他に、やはりデザイン面でカバーする必要性を生じた。

まず、目線の動きである。
色彩:「淡」→「濃」
この「淡い色の中で目立つ濃配色」を操作してみることにする。

白一色の文面で単に黒色だけを配置するだけでは目線の誘導を上手くサポート出来ない。
同じモノクロにも濃淡はある。

まず紙面全体に微妙なグラデーションを配した。



先のページ、こちらの画像では伝わりにくいが、中央の仕切り線の他に、実は背景色にもグラデーションがかかっている。
具体的にはK5→K15である。
このグラデーションは各ページに変化をつけた。次の見開きではK25→K35、次はK45→K65といった具合だ。
小冊子は全6ジャンル、見開きは各ジャンル3回、こちらは都度パターン化させることにより
「濃度の高いページは、難易度が高そう」
とニュアンスで理解させた。

ちなみに、色彩情報サイト「色カラー.com(https://iro-color.com)」によると
「黒」→威厳、陰気、恐怖、脅威、重力、上質、深さ
「白」→純白、空虚、軽い、潔癖、純粋、神聖、清潔、清純
などの情報を想起させるのだという。


また、こちらはページを開いた際の目線にも反映されている。
今回の小冊子は1、2ページの問題の解答を2ページ右隅にまとめて掲載した。
1ページ目に掲載されていない問題の解答を、先ほどの「淡」→「濃」で誘導してみることにした。






ページ左上から右下へと流れる、背景のヘクスタイルがそれだ。

ページ全体を見開きで確認した後、目線の誘導をサポートする役割を持たせた。
こちらはもう一つ、誘導の役割と同時に、文面の「白色一律」という視覚情報から、少しでも退屈となる文面に変化をつけ、視覚からの情報(ひいては脳の退屈を防ぐ作用)が均一とならないようサポートする一面をも併せ持つ。


◆可読性へのこだわり

まず、一部「可読性へのこだわり」は捨てた。
 良いデザインとは、芸術的な一面と、実用的な側面の、両面を併せ持つもの、と、私は昨年の記事で書いた。

では読みやすさにこだわってしまうことが、必ずしもデザインの良さに比例するのだろうか。

それらは「芸術的センス」のある一部デザイナーの仕事だ。
私のような見習いレベルの人間に、その両極端なステータスを同時並行で走らせることは到底難しい。

可読性
例えば「ふくろ文字」と呼ばれる、文字に枠をつける表記方法だ

袋文字を使用することで、柔和なニュアンスを文字だけで表現できる他、可読性、視認性も向上する。
しかるに、場面によっては、文字フォントが持つ独自のソリッドな感じを活かすことができない。

文字の大きさもそう。
老眼対策に文字を大きく、と、何度かツイートで見かけたものの、どうしても本小冊子、
文字を読ませることを主体とするものであり、文字の大きさ云々を多少犠牲にしてでも、より多くの活字を掲載したかったのだ。

あまりに度が過ぎたものは論外だが、
「読もうと思えばギリギリ読める」
そのレベルまで文字の大きさを下げることにした。
なお参考までに、今回は文字本文を8Pに基準を定め作成している。


解答欄の創意工夫

可読性といえば「判読可不可」のギリギリを行う工夫も行った。

私の小冊子に限らず、これまでのクイズ小冊子は「問題のあとは即座に解答を知りたい」層と「ギリギリまで考え、あとでゆっくり解答を確認したい」層が混在していた。

そのため、解答欄に関して、目に届く位置だと後者から「考える間も無く解答に目がいってしまう」、逆に解答を別ページに移すと「知りたいときに解答がわからず不便」と前者の層から不満が上がっていた。

前作の春にて解答欄を隠す為のしおりを添付したが、それでも他にデザイン面で解決できないかと考えた。

たどり着いた結論が「解答欄の配色」だ。



解答欄の配色を「敢えて見にくく」施すことで、一見して解答がわからないよう工夫した。
背景色はK60、文字色はK80、工夫次第でこちらも微細な調整が効くだろう。


また、難易度の高い問題のページは敢えて配色を変えている。



問題難易度の高いページに関しては「即座に解答を確認できる」よう比較的視認性の高い配色を施した。
背景色はK20、文字色はK40
難しい問題を使用する場面は「パーティ向け」というよりむしろ「自己の知識比べ」言うなれば「難しいと判断した際、即座に解答が判別できる」態勢が主体となるだろうと判断し、それなりの可読性を重視した。

専門用語に関して

ボードゲームをプレイする中でつい多用しがちな「専門用語」も然りである。

手前味噌ではあるが、今年9月、関西の大手クイズサークル「QuizDo」様にインタビュー記事の執筆を依頼され、その際に記述した内容の一部を紹介する。

(参考URL:ボードゲームとクイズ(4)QuizDo2018年11月5日)

(以下引用)
界隈だけで通じる言葉をつい多用するクセがついてしまうと、何かしら「コードネームを使用する錯覚」に陥るのか、気心の知れた界隈の結束は深まるかも知れませんが、一方では排他的となり、また、それらを使用した別の表現をしづらくなってしまうなどの弊害も生まれます。

専門用語の多用は厳禁だ。
しかし、敢えて「使うべき場面で使うこと」により、読み手との親近感を高める効果をも併せ持つ。
必要以上の多用は避けるが、要所要所での使用は積極的に用いることにした。

本小冊子には、一部専門用語を極力別の言葉に置き換えている。
(例)
「ボドゲ」→「ボードゲーム」
「初心者」→「ビギナー」
「イージー」→「カジュアル」
「簡単な問題、難しい問題…」→「1st STAGE、2nd STAGE、FINAL STAGE」
「スタピー」→「スタートプレイヤー」「最初の手番」
etc…

また、高難度問題の場面では「インスト」「ゲムマ」等の用語を敢えて使用し、親近感をより高めるよう施した。




出来上がりはしたものの・・・

これらをふんだんに取り入れ、無事に仕上がった作品ではあったものの、実はこれまでの評価件数は「ゼロ」である。
エゴサーチをどれだけかけても、デザインに関する評価は一向に上がってこない。

・・・。
頑張った時間量に比し、一件も評価がないことへの悲しさやら情けなさやらで、実は一度、本気で制作自体から手を引くことを考えた。

そんな時に、あることを思い出した。
今年9月に開催されたトークショーの中で、タンサンファブリークの朝戸氏が
「目立たないのがデザインですから」
と語った。

中国の老子の思想に「無為自然」という言葉がある。
こちらは何も感じさせない、相手にそれとなく気づかせる行為こそ、相手を支配している概念だという理論である。
無意識で行動する影には、相手の「それとなく操作する」行為が根付いている。

デザインの話を聞きながら、「言葉では言い表せないけれど、なんとなく、いい」が気づいたならば、デザインとしてそれは成功だったのではないか、
ならば、一件も上がらない評価とは、逆に「すでに購入者の中の意識化に根付いている」ものではないか、それはとても幸せなことではないだろうか。

そんなことをぼんやりと考えた。


今回、これら「目立たない箇所で頑張る影の主役たち」言うなれば「縁の下の力持ち」にスポットを当ててくださったことに、改めてお礼の言葉を述べたいと思う。
同時に、他の作品にも同様の「隠されたデザイン的工夫」を見定める目、それらを今後も養い、自分の制作の糧となれたらと心から願う。

(了)








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